地球では、ディベーターズなんばーわんを決める大会がありました。ご存じのとおり、WUDC(通称Worlds)がインドのチェンナイで開かれました。この一か月という節目でもって投稿ができるることは、なんてすばらしいことでしょう。(笑)
ICUDSからは、
ICUA: Koki Sasaki & Aiko Imai
ICUB: Hitomi Takai & Ken Kuroki
Judge: Hirohito Asai
が出場しました。
気になる結果ですが、
ざんねんながら、ICUAはブレイクならずでしたが、
ICUBはブレイク!感動。。。(EFL)また、
Judgeの元部長のあさいさんにブレイク!!!*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*
日本ディベート界ではすばらしい快挙です。
あさいさん+いんど |
電気をチャージ中。。。のあさいさん |
おめでとうございます。ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
今回は、きょうじゅ(Ken Kuroki)さんが今回の大会について書いてくれました。本人曰く、我らが愛するおじさんと読者のために書いたそうです。
わたしも読んでて、非常に感動しました。
右が作者のきょうじゅさん。 |
Worlds感想
年末から年明けにかけてインドのチェンナイで行われたWorld Universities Debating Championship(通称WUDCあるいはWorlds)に参加してきたのでその感想をつらつら書いてみます。なお軽く一万文字を突破し非常に長くなっておりますのでご注意ください。
もくじ
1. Worldsに行くまで
2. Worldsに行って
2-1. 大会前
2-2. 予選1日目(29日)
2-3. 予選2日目(30日)
2-4. 予選3日目(31日)
2-5. 予選を終えて
2-6. ブレイクラウンド観戦
3. ディベートの内容面で感じたこと
3-1. Say Right Things, Say Things Right
3-2. Macro and Micro
3-3. Find out your BOP
3-4. Make a Case
3-5. Engagement Matters
4. Worlds全体について
5. 私がディベートを続けてきた理由
6. おわりに
1. Worldsに行くまで
私が今回のWorldsに行けることが決まったのは10月の半ば、枠が二つになったことによる幸運でした。パートナーはひとみ。二人で組むのは前年の凌霜杯・Japan BP以来でした。言うまでもなくひとみはものすごくディベートがうまいわけですが、それだけでなくてアイデアが共有しやすかったり、ディベート外でも元来セクメでお互いを知っている間柄。まあ一方的にそう思っているだけなのかもしれませんが。ともあれ一番長くてタフな海外大会に出るにあたり一番組みやすいパートナーに恵まれてWorldsへの期待は高まりました。
しかし本格的な練習を始められたのはずいぶんぎりぎり、Japan BPの直前期になってしまいました。11月には期末試験があり、秋合宿はBP Noviceに向けた練習に費やし、さらに私はNoviceの初日だけシャドーで遊んでからアメリカの大学へ視察に行ってしまったためです。今回のチームで私はLeader/Whip、ひとみがDeputy/Member。課題はOpening、特にOGに入ったときにはいまひとつきれいにまとまったケースを立てきれないこと、およぶClosingに入ったときはうまくそのラウンドにおいて効果的なextensionをidentifyできないことでした。後者は組んでいくうちに息があってくると改善しましたが、前者は引きずることになります。
すぐに迎えたJapan BP、初日はつくばまで遠征(笑)して3ラウンド。ラウンド3で失敗してしまったこともあり3ラウンドで6点。ボーダー予想は8点でちょっと怖い状況に陥りました。特にBPは何があるかわかりませんからね。翌日、ラウンド4は混戦になったものの幸いなことに1位。合計9点を獲得し10位にてブレイク。その後はQuarter-Final、Semi-Finalを不思議なほどあっけなく勝ち上がっていけました。途中富永さん&しゅんさんチーム、田中さん&二井谷チームという強豪も倒して、です。両方ともClosingに入り、ひとみのextensionが冴えての通過でした。ただこれは二回とも前にICU Aがいて何を言うか・何を言わないかがラウンド前から読めたこと、また強豪チームは二回とも斜め前にいて、投げかけてきた疑問に答え、相手のケースを一方的に攻撃できたこと、さらに相手側のClosingチームには必然的にextensionがなく苦しかったことが合わさっての僥倖に感じます。でもそれはいつまでも続きはしませんでした。
Grand FinalのポジションはOO、向かいのOGはICU A。CGは戸塚平澤チーム、COはトーマスみつしチーム。とりあえず向かいだけは打倒したいと思いつつスタート。Motion:TH regrets the decline in popularity of communism in modern world. ……わからない。どこをケースに据えればいいのかがわからない。相手の話も読めない。冷戦期の均衡が崩れ資本主義アメリカ一極支配になったのが悪いという話か? 時間もなくあわててそれっぽいケースをでっちあげるもののPMが「資本主義に対抗する言論として必要なだけで共産主義国家の存在はサポートしない」と言ってきた。そりゃないだろうとイントロから叩くことを試みるがジャッジに伝わっている感触がない。もとより話が十分に消化できていないことでスピーチ全体がしどろもどろになってしまって思うように話せず終了。ひとみがそのあとうまく埋めてくれたものの、戸塚&平澤はきれいに話すしトーマス&みつしさんは相変わらずあまりにかっこいいしで自分がいるのが場違いすぎて消えたくなるGrand Finalでした。一応これで大きな大会のGrand Finalistになったとはいえ、不思議なほど実感がないままで終わってしまいました。
一週間後にはTokyo Mini。とりあえずふたを開けてみると参加者の顔触れがやばい大会でした。なぜWUDCのジャッジをする人たちがディベートをしているのかという(笑) そんなトップラウンドには入らなくても非常に厳しい大会でした。けっきょく3ラウンドで2点しかとれないという悲惨な結果。後から振り返ってみればWUDCそのものよりも悪い結果に終わったわけですね。Japan BPのときより多くのマターが飛び交っていて私のWhipが対処できなくなっていた感があったことも否めませんでした。さすがにこの結果には先行き不安になると同時に、やはりJapan BPのときは単なる幸運で決勝まで進めただけだったのだなと痛感させられました。
2. Worldsに行って
2-1. 予選前
Tokyo Miniで落ち込んでいるひまはなく、すぐにWorlds本番がやってきます。航空券の値段の都合で25日発、同日深夜チェンナイ着の便でした。インド行きの飛行機で過ごすクリスマスとかユニークで素敵ですね(笑) さすがにインドはいろいろと怖いのであらかじめホテルの迎えを頼んでおいて、それに乗って安全に到着。翌日26日はまるまるフリーということで観光へ。どうやらここではタクシーは一般的でないようです。三輪バイクのオートリキシャーは山ほど走っていますがこれに乗るのもなかなか冒険。ということでホテルの車をチャーターして回ることに。こういうとき金に任せて何でも手に入れられてしまうことは便利ですが釈然と感があるのは私だけでしょうか。ただ金ならあるというだけであたかも身分が高いかのような扱いを受けることがこそばゆいというか、申し訳ないというか。閑話休題、観光では"Marina Beach"に行ったり地元色にあふれる博物館に行ったりしてインドらしさを味わいました。ただ私たちが車から快適にめぐる道中で見るものはスラム街であり、貧困の中にある人たちで、どこか心に痛みを覚えました。
27日になってようやく大会で提供されるホテルにチェックイン。ここでようやく日本や各国からのディベーターたちと合流し大会気分がかきたてられました。しかし最大の問題はwifiが有料でずいぶんと高いこと。まあ始まってしまえば後述のとおりホテルでゆっくりネットにつないでる余裕なんてなくなるのですが。28日になってようやくまずはMastersの予選、そしてブリーフィング。海外大会のブリーフィングと言えばスポンサーとか大学のトップとかいろいろと権力を持っている人たちのスピーチが恒例ですが、Worldsは世界最高の大会だけにこれも最高に長い。この地域を治める市長(?)のような人物のスピーチのときは短機関銃を持った兵士がステージににらみを利かせていてあまりに物々しい雰囲気。肥え太った悪役感ばりばりの人物で、いったいいくらくらい横領しているのだろうか、前に見たような貧しい人々のためにあの兵士はむしろこいつを撃つべきではないのかと不謹慎ながら思わずにはいられませんでした。
2-2. 予選1日目(29日)
ようやくはじまった予選。しかししょっぱなから準備に問題があり、ラウンド1の開始までに何時間も待たされてしまいには正午を過ぎるありさま。はたして今日3ラウンドできるのだろうかという不安が参加者の間で広がっていました。
Round1:THBT the United States of America should fund moderate Madrassas (schools of Islamic study) throughout the Islamic world
3rd OG:Swing B(China)
2nd OO:University of Ljubijana B(Slovenia)
1st CG:Aberystwyth University A(Wales)
4th CO:ICU B
Judges:Tarit Mukherjee(Chair), Taahir Munshi, Hazem Taiha
CGがmodestなmuslimがすでにvast majorityなんだからharmないじゃん、AP仲良くなれるよ、みたいに楽天的contextに持っていこうとしたところにうまく返せず4th。そもそも早いし聞き取れなくて意図が十分にくみ取れませんでした。OOもうまかったのですが、だいぶケースすらあやしかったOGにも負けたのはなかなかショック。ExtensionのOOとの違いをwhipで十分に見せられなかったのも敗因でした。このラウンドで今回9ラウンド通して最低点の68点を食らいました。CGにろくにエンゲージできていなかったということなのでしょう……。言い訳がましいのは嫌いですが、今回の会場は教室での音の反響が信じられないほど激しくもはや何を言っているのかわからないほどになっていたことはつらいものでした。
Round2:THW allow first-time offenders to, with the consent of the victims, pay compensation to them in place of a prison sentence
3rd OG:ICU B
4th OO:Tsuda A(Japan)
2nd CG:China University of Petroleum A(China)
1st CO:University of Dhaka A(Bangladesh)
Judge:Omer Nevo(Chair), Anderw Bell, Matthew Gombos, Adel Mostaque
9ラウンドを通して日本のチームとあたったのはこのラウンドだけでした。ひとみがうまいケースを考えてくれて初犯だったら再犯率も低いし、唯一被害を受けたactorであるvictimがいいって言っているんだから十分じゃん、という話をしました。しかし「再犯しづらい」というところが証明しきれず3rd。たしかに重要なborden of proofだったのでやむを得ないです。ChairのOmerからのフィードバックが非常に明晰で感動を覚えました。
Round3:TH regrets the rise of a 'hookup culture' (one which accepts and encourages casual sexual encounters focused on physical pleasure, without necessarily including emotional bonding)
4th OG:Splitska Debatna Unija B(Croatia)
3rd OO:Warsaw School of Economics A(Poland)
2nd CG:ICU B
1st CO:University of Kiel(Germany)
Judges:Sounak Sarkar(Chair), Grace Elkins, Marydith Eusebio
苦手意識の抜けないregretモーション。まずモーションの理解に苦しむ。別によくない? という気しかしませんでした。しかしなによりいちばんつらかったのはラウンドのレベル。Opening Halfの話を聞いているとこれは数か月しかディベート経験ないだろう、と思わざるを得ない議論の展開。ジェンダー的な観点を中心としたextensionで押したものの「単にanalysisを出しただけでframingしてない」となって2位。一日目は結局3ポイントだけで終えることになってしまいました。揺れの激しいバスに一時間揺られて帰ったらもう23:30。しかも夕食は食べていないという。もう疲れて寝るのみでした。ソーシャルにいけば食べ物があったようですがこんな時間に行った人ははたしてどのくらいいたのでしょうね。
2-3. 予選2日目(30日)
今度は会場に来る途中にバスの一台が故障したと言ってまた大きな遅延。昨日よりはましですが遅いことに変わりはなし。さらにはIndependent Adjudicatorsに払われるべきお金が支払われないとのことでストライキが予告されました。どうも大学側に相当問題があるようで……。
Round4:THBT developing countries should ban members of political dynasties from standing for elected office
2nd OG:University College London A(UK)
3rd OO:ICU B
4th CG:Ball State University B(USA)
1st CO:Sciences Po Paris - Campus de Menton A(France)
Judges:Richard Boltizar(Chair), Stacey Waring, Winnie Jobanputra
MOのdemocracyについて語るwordingが神がかり的にかっこよくてこれはさすがに持っていかれたかな、とはなったものの少なくとも2位だと確信していたら3位。2位をくれたChairがRollされてこうなったらしい。Citizenがdynastyによる政治を望むのかどうかちゃん選べること、そしてときにdynastyを選ぶbenefitがあることをLOできれいに説明できた自信あったのに3位。どうもOGがほとんどdictatorに近いdynastyのcontextでunfairなburdenを押し付けてきたところに返し切れなかったのが敗因だったそう。汚職は別にdynastyじゃなくても起きるしそもそも最悪のケースを守る必要もない、というところをちゃんと言っておくべきだったようです。
Round5:THBT the Trans-Pacific Partnership is in the interests of the small and medium-sized negotiating countries
4th OG:Bangladesh University of Engineering and Technology B(Bangladesh)
1st OO:University of Maryland, College Park A(USA)
3rd CG:University of Dhaka A(Bangladesh)
2nd CO:ICU B
Judges:Dino de Leon(Chair), Anisha Raina, Rose Grant, Nitya Uma
TPPモーションきた! と思ったら日本で語られるところとは違う切り口なので優位性はなくて残念。Govサイドはだいぶ苦労していてTPPにユニークなbenefitが出てきてないのでつぶせたものの、exploitされる話がOOを越えられずに2位どまり。EUと一緒じゃんとCGが反論してきたところにwhipでEUとは均質性がぜんぜん違うと返して守ったらそこがジャッジに評価されました。私のWhipの話がRFDの中で出てきたのはこのときだけだった気がしたり……。おかげで9ラウンド中最高の76点をもらえたものの、1位を取れないことへの焦りがつのっていきました。
Round6:THW make the receipt of welfare payments to raise children conditional on the use of long-term, but reversible, contraception
4th OG:Moscow State Law University(Russia)
2nd OO:ICU B
1st CG:Assumption University A(Thailand)
3rd CO:EBS Universitat fur Wirtschaft und Recha i.Gr. A(Germany)
Judges:Jonathan Kay(Chair), Justin Lin, Zanele Ncube, Arun Shanmuganathan
無難にPMの話に返してからreproductive rightの侵害だし、あるいはもしそれでも産んだら子どもがかわいそうだという論を展開。しかしどうしてwelfareがなくても無理に子どもを産むのかが証明されていないと言われるというRound2と似たようなパターンに陥って2位。一日目よりはましになったもののopenラウンドを8点で終え、明日は3ラウンドともcloseでわからないというどきどきの展開に。しかしなによりまだ1位を取ったことがないのがつらい帰り道でした。再び夜が遅く夕食が食べられないことにはもはやあきらめの感。
2-4. 予選3日目(31日)
予告されていたジャッジによるストライキは結局起こらず
Round7:THBT government agencies that regulate drugs should only test whether a drug is safe, not whether it is effective, before approving it for public use
2nd OG:University of Maryland, College Park A(USA)
1st OO:Patrick Henry College A(USA)
4th CG:ICU B
3rd CO:Multimedia University Cyberjaya A(Malaysia)
Judges:Colin Etnire(Chair), Mohammad Shariful Islam Chowdhury, Amam Baboolal
わりと勝ったと信じていたら4位だったというラウンドでした。いまひとつOGの説明が不十分で、そこの話をだいぶつめてみたものの、おそらくOppから来ていた「一部のケースにおける問題に対処するためにどうして全体のシステムを変えなくてはならないのか」というクレームに返せず、単にアナリシスを足しただけとみられたことが原因でしょう。それでもあまり納得はしていませんが。
Round8:THBT NATO should unconditionally offer membership to the states of the former Soviet Union, excluding Russia
2nd OG:Lund University B(Sweden)
3rd OO:College of the North Atlantic - Qatar A(Qatar)
4th CG:University of Alberta Debate Society A(Canada)
1st CO:ICU B
Judges:Liu Baoquan(Chair), Marchella Febryanti, Aashraya Sharma, Vaibhav Daga
モーションのexcluding Russiaに引っぱられすぎていてみんなロシアの話しかしないラウンドでした。NATOの役割の話を説明して、APはNATOが機能不全に陥るという話をいろいろな具体例とともに立ててごり押しして1位。このときは非常に気持ちいいディベートでした。
Round9: TH regrets the commodification of indigenous cultures
3rd OG:ICU B
1st OO:Binus International A(Indonesia)
2nd CG:National Law University, Delhi A(India)
4th CO:Institute of Law Nirma University A(India)
Judges:Gina Iberri-Shea(Chair), Marchella Febryanti, Gillian Michaelson
今度は人類学メジャー(仮)のひとみの知識が爆発したラウンドでした。Commodificationのharmをきれいにプレパで出してくれてすげー、となったものの、私がいまひとつ整理して話せませんでした。11点ラウンドでいままでよりだいぶレベルが高いラウンドでした。CGが「Japanese tea ceremonyとかもcommodificationのせいで本来の価値が損なわれている」とか不思議な例を出しつつ話を広げて2位、そしてOOに1位を持っていかれて3位でした。むしろOOには勝っていた気がしたので意外ですが、正直周りがうまかったなというのが感想です。
2-5. 予選を終えて
予選9ラウンドを終えて12点。残念ながらブレイクラウンドへ駒を進めることはできませんでした。他の日本勢もEFL Semi-Finalですべて消えてしまったことも残念です。いつまでも続くかのように思った予選も終わってみればあまりにあっけないものでした。一日目3点、二日目5点、三日目4点と後半で点数が伸びることはありませんでしたが、感覚の上ではラウンドを重ねるにつれてディベートに食いついて行けるように、中心に切り込んでいけるようになった気はしました。ひとみとも息があってきたように感じられてチームとしても納得のいくディベートができたのでけっこううれしく思っていたりします。特にラウンド8は一番いいextensionが決まった手ごたえがあって、実際一位だったのでよかったのでしょう。
そして予選で日を重ねるにつれて何よりもディベートが楽しくなっていきました。一日目は気分が沈み、二日目はちょっと楽しく、そして三日目は楽しくて楽しくてしょうがないディベートでした。今までどの大会でもこんな楽しさはなく、ランナーズハイってこんな感じなのかなと思うほどでした。三日目のスコアを楽天的に予想しすぎてのちに肩透かしを食らう羽目にもなりましたが、ディベートをしている間は本当に幸せでした。チームの中の話をするなら、結局は最後までひとみに頼りきりでした。マター面では最近は時事問題の知識も身に着け、天性のディベート感と相まってほんとうにうまい。私はただ教えてもらったことを並べてくるだけでした。
2-6. ブレイクラウンド観戦
とりあえず優勝候補だと思っていたSydney B (Elle Jones, Chris Bisset)を見る方針にする。Partial Double Octo-Finalはしかし上位ブレイクはいないのでYale Aのいたラウンドを見ましたが、その明晰なpractical logicの立て方にいつもやられ役な印象のあるアメリカもなかなかやるなと感じました。その後はずっとSydney Bを追っかけましたがSemi-FinalでHarvard Aを見てこれまた感激。好みが分かれるとは思いますが、抽象的なmotionにも単純明快に切り込んでいって手厚いlogicを構築するディベートを私はいっぺんに気に入りました。
3. ディベートの内容面で感じたこと
たぶんみなさんにとってはもうわかっていることでいまさらこんなことに気づいたのかよと言われるでしょうが、私なりに気づいたところを書いてみます。
3-1. Say Right Things, Say Things Right
私のディベートの原点であり、もっとも尊敬する先輩であるICU13(OB)の啓太さんによく言われたフレーズです。たった6単語にしてディベートを表しているなとあらためて気づきました。正しいことを言う、そしてそれを正しく言う。まず前者については究極にintuisiveな話から出発させつつ、それを貫く論理を見抜いて明瞭に説明し、帰結を敷衍していくことが一番強い話の作り方なのだなということを改めて実感させられました。あたりまえじゃない話では勝てない一方で、あたりまえの話を単に「あたりまえでしょ」と言うだけでも勝てないということです。
そしてより重要なのは後者、やはり同じアイデアを持っていても言葉が違えば伝わり方は違う。そんなの言うまでもないことですね。よく言われるように言語は単に媒介するだけの存在ではなく思考そのものの枠組みなのだから、言葉の稚拙さと思考の稚拙さは等価なのでしょう。もっと気の利いた言い回しを修得しなければいけません。ディベートは人の心を動かすことなのだから、琴線に響くことを言ってこそです。単純な理論に還元したら見過ごしてしまうディベートの直観的な側面を私は大事にしていきたいと思うのです。一方で、言語以前に同時に物事への理解を深めることが外国語でも的確な主張ができるようになるためには欠かせないのかなとも思わされました。あやふやな理解しかしていない概念を用いて主張を説得的に説明することなどできないでしょうから。
3-2. Macro and Micro
上手いチームのディベートを見ているとマクロとミクロの移動がうまいという印象を受けます。Motion全体に対してのマクロな(しかしgeneralすぎない)視点から出発して包括的なケースを構築し、そしてミクロに焦点を当てて具体的で強い話をし、マクロに戻ってきて結論するのです。あたかも華麗なカメラワークでズームイン、ズームアウトをしているような論の立て方でした。マクロだけでは抽象的すぎます。ミクロだけでは何を話しているのかやmotionにつながるのかが分かりません。その二つをきれいに融合することで説得力のある話になるのです。また単に二つのスケールの話をするのではなく、マクロからミクロに向かうときの事象の切断・抽出の仕方が美しいとも感じました。まっすぐディベートの核にある話に向かっているように聞こえ、なるほどと納得せざるを得ないのです。
3-3. Find out your BOP
これはもっと初歩的なレベルの話です。ジャッジが一般人として(あるいはジャッジブリーフィングで言っていた"informed global citizen"として)自然と疑問に思う点を説明せずに放置してしまうと仮に誰にも指摘されなくても負けてしまいます。Leaderの段階から飛躍のない着実なケースを組み立てていくことはBPでもはやり大事で、自分のケースを極力客観的視点から評価し、一般的感覚に照らして違和感がないようにすることが何よりも欠かせないのだなと理解しました。
3-4. Make a Case
ケースを作る。当たり前のことだし、一応Openingではなんとかやろうと試みていました。しかし今回Closingに入ったときにも自分のチームなりの完成したケースが求められるというのが日本でのディベートと違うところのように感じました。単にここのlogicが足りなかったから足したというだけではなかなか勝てず、contextや帰結で違うシナリオを提供しそれを完結させないとextensionとして高くは評価されづらいようです。
3-5. Engagement Matters
これは主に英語的な面です。やはり英語はどうしても聞き取れません。特に今回は教室の環境が音響面で劣悪だったこともあります。でもそんなことには関わらずとにかくengageしないと負けてしまいます。ジャッジによってquestionを投げるだけで評価するかしないかはわかれる印象でしたが、やはり相手から言われたことには答えなければなりません。また、相手のポイントをつぶすにせよサインポストしかわからなかったら反論のしようもありません。全力で傾聴しないと相手の話がわからないし、してもしばしばわからない。どうにか理解しても聞くことだけに全力で集中した結果としてレスポンスを考える余裕もありませんでした。やはりディベートの流れについていって評価されるためには聞き取って的確にレスポンスすることが欠かせません。一方で自分の話をジャッジに伝えるうえではそれほど大きな問題は感じませんでした。話している間にジャッジのペンは動いていたし、伝わってはいるのです。ただ問題は相手の話も伝わっていること。だからエンゲージしないといけないのです。
4. Worlds全体をふりかえって
今回は歴代のWorldsの中でも大会運営にかなりトラブルのあった回だったようで、実際いろいろと大変でしたが、結局9ラウンドディベートできブレイクラウンドも見られて充実はしていました。特に予選後半はラウンドをしていて最高に楽しかったし、いい刺激にもなりました。海外の人たちとの交流という意味では個人的にはあまりうまくいかなかったかもしれません。知ってる人がすでにわりといたり、あまりソーシャルに行く余裕がなかったりしたのも要因ですが、顔見知りはあまり増えませんでした。その反面うれしかったことはアジアのディベーターからちょくちょくICU Tournament行くよとか知ってるよとか言ってもらえたことです。海外に対して自らの名を冠する国際大会を運営していることで知られていることは誇らしいものでした。
そしてやはりディベートをしているのなら国際大会に行くべきだとの感を強くしました。これも啓太さんによく言われたことでした。去年の3月にMalaysia Debate Openに行ったときにはろくに話が伝わらなくてつらい思いでしたが、いまはどうにか伝わって、決してうまくはないものの海外で戦っているという実感があります。海外で自分の言葉の力で勝利したときのうれしさは国内と比べてやはり格別です。仮に勝てなくても世界の壁を思い知るというのは見識を広げるうえで価値あることだと思います。そして国際大会の中でもWorldsは格別です。規模が大きく、歴史があり、期間が長く、質も高く、何より全世界から参加者がそろっていることによるものなのか、説明しがたいですが行ってみてはじめて分かる特別な雰囲気がありました。
Worldsから帰ってきてみればもう2014年、Asianシーズン。少しばかりディベートのコミットメントを減らそうかとWorlds前は思っていましたが、気づけばもっともっとやりたくなっている自分がいます。客観的に見てうまくなったかはともかく、前よりもスピーチをしていて不思議なほど楽しいのです。前はしゃべることに精いっぱいだったのに今はもう少し余裕が出たように感じます。ディベートってこんなに楽しいものだったのですね。いままでまったく気づきませんでした。そう思えるようになるかもしれないという点でもやはりWorldsは行くべきです。
5. 私がディベートを続けてきた理由
ただの自分語りなのでぜひここは読み飛ばしてください。今回のWUDCは私のディベートの活動において一つの大きな区切りになるものだと思います。といってもこれでやめるわけではありません。今後も続けていきたいと思っています。春Tで結果は出したいし、次のWUDCも枠を勝ち取って出たい気持ちもあります。でもともかく今回は私にとっていままでで最大の挑戦であり、今までにやってきたことすべてを賭して勝負する機会でもありました。だから今まで私が何を思ってディベートを続けてきたかに触れてみたいと思うのです。
私はICU Debating Societyの中でいつだって二軍で、B級で、スポットライトが照らす外にいました。ほんとうにいつだってそうでした。他の人がどう思っていたかは知りません。でも私の中では動かしようもない圧倒的現実だったのです。追い付けそうな気すらしませんでした。部内や他大の同期や先輩が話しているのはひとみがすごいねって話で、たかひこがすごいねって話で、主役はいつも二人でした。自分にはジョイントの誘いがかかることだってまずなかったし、大会に出ればチームはICU Bであり、ICU Cであり、ICU Dであって、めったにICU Aの看板を背負うことはありませんでした。ブレイクラウンドで活躍するのはいつもひとみであり、たかひこであり、私ではありませんでした。梅子杯でICUが優勝しておめでとうと人々が言うたびに、ブレイク落ちした私は涙を隠すのが精いっぱいでした。あるいはひとみと組んで大会に出ればまわりからは「ひとみのところ」と認識されているだけで、私は誰とでも取り換えのきく付属品でしかありませんでした。
疎外感と劣等感。それが悔しくて、でも何も変えられず、やけになって昨年の春には春セミ、Titech、MDO、ICUT、The関西とひたすらに大会に出たこともありました。去年の夏にはAustrals、IDO、ADI、夏セミとひたすら海外大会や海外レクチャーを受けたこともありました。でも結局大した進歩はなく何を得たのかもよくわからないで終わってしまいました。だめだめですねこれじゃ。あるいは秋には17(一年生)に教えたり一年生大会のジャッジを積極的に引き受けたこともありました。でも人にきちんと教えるためにはまず自分がもっともっとうまくならないという事実を突きつけられるだけでした。
努力不足は認めます。ほかの人がしているような懸命な努力を私がしていたとは思いません。最高に恵まれた練習環境がありました。すばらしいアドバイスをいつももらっていました。けれどそれを最大限に活用していたとは思いません。私なりに精いっぱいだった部分もありましたが言い訳は嫌いだし多くは言いません。
贅沢を求めていることも認めます。なんだかんだブレイクは何度もしていました。梅子エリミネも4位とはいえ通りました。そうとうな手間をかけて育ててもらいました。いろいろな人に知ってもらえてもいました。もっともっと苦労している同期がいることは知っています。他大ではさらに練習環境もなく筆舌に尽くしがたいほどつらい思いをしている人たちがいることも知っています。それでも私の目の前にいるのはひとみであり、たかひこであり、常にその二人に勝てないことをいやというほど思い知らされる日々でした。他の人がどうであっても関係ありません。
じゃあ今回Worldsでどうだったかといえば結局さして変わりませんでした。点数ではチーム内で10点差で負けたし、自分もいくばくかはましになっているとは思うものの、最近のひとみはもっとうまくなっていて追い付けそうな気はしません。いままで大会でGrand Finalまで進んだことがあるのはGeminiとJapan BPで、どっちもひとみと組んだから行けただけ。打倒ひとみは去年立てた無謀な目標だったのですが、残念ながら達成できないまま今年の目標に繰り越しになりました(笑)
でもひとみとたかひこがいてくれたことにもちろん感謝しているのです。単に大切な仲間であってくれただけではなく、手の届かない存在であってくれたことに。結局それが自分がディベートを続けている理由なのだと思います。もし勝ってしまってたら調子に乗ってしまったでしょうし、きっと飽きてディベートをやめてしまっていたでしょう。私は要領がいいわけでもないし、センスがあるわけでもないし、人一倍努力するわけでもない。ただ悔しい思いをしたとき放り出さず、しつこく食い下がり続けてきました。ディベートをやめることなんてしょっちゅう考えていました。でも負けてあきらめて逃げるのは悔しくて、自分のありかたとして許せないからずっと続けているのです。
言い換えればただ往生際が悪いだけです。「あきらめない」のではなく「あきらめられない」というのが本当のところです。生き辛い性格な気がしてなりませんね。でもそのおかげで今まで何とかやってきたわけです。相変わらずディベートは下手だけど自分なりに少しはましになりました。人前でもちょっとは自信をもって話せるようになりました。論理的思考とやらも多少なりともわかったつもりになれました。以前は関心を持ったこともなかったことが気になるようになりました。何よりも国内や世界のディベートコミュニティにいられました。実績を出せるようになったかには関係なく、続けててよかったなといまあらためて思います。
そろそろ"So what?"という声が聞こえてきたような気がします。言いたいのは「どうか逃げないでほしい」ということです。ディベートを続けるか否かは選択です。どっちが間違っているとかはあるはずもありません。他のことの方が大事なとき、有意義なとき、自分の能力を活かせるとき、あるいは単に楽しいとき、他のことを選ぶのはまったく正しいでしょう。どうかそうしてください。でもディベートがつらいからと逃避するのは別問題だと思うのです。「がんばっていればいつか結果は出るよ」とか言うつもりはありません。それはただのまやかしです。「結果が出ればがんばったおかげ、結果が出なければまだがんばりが足りない」という残酷かつ非論理的な言明に過ぎません。がんばっても結果が出ないことはあります。でなければ結果が出ないでずっと苦労している人々はだれひとりがんばっていないとでも言うのですか? 私はそうは思いません。
ただ私は結果が出るか出ないかに関わらず続けていくことに価値があると思うのです。ディベートは自分との勝負です。結果が重みをもつシビアな世界だからこそ、純粋に自分を見つめられるのだと思います。自分が何をできるかを知り、自信を持つ。自分は何ができないかの身の程を知る。自分よりもっと卓越した人がいつだっていることを知る。パートナーと信頼関係を築く。それは試みるだけでも価値があると思うし、ジャッジのvoteがもらえるようにならなくてもきっと自分の中では進歩があると思うのです。結果は単に他人との比較です。自分に向き合ったか否かは示しません。「ディベートはジャッジを説得する競技」、たしかにその通りですが、だからといって説得できなかったら何の価値もないなんてことはありません。結果が出せなくてもずっと懸命に取り組んでいる人は目立たないかもしれないけど、そんな人を応援したいと私は思います。
でももっと本音を言えば、逃げることはあまりに甘いと思うからです。もちろんいろいろ忙しいことはあるでしょう。勉強や他の活動などなど。バランスが必要なことは間違いありません。大会にたくさん出るだけが価値ではありません。私もうまくできているわけではないし偉そうなことは言えません。器用にいろいろなことをこなしている人は尊敬に値します。あるいはどこかできっぱりと切り替えるべきタイミングもあるでしょう。……でも、そう言って逃げていませんか。自らの限界を見たくないから、本気でぶつかったらもう何も言い訳できないから、だから「他のことと両立したい」とか「ディベートにそこまで本気ではない」とか言うのではないですか。痛みのない優しい世界に逃げているのではないですか。そうやって見たくないものから目をそらす精神性が私は嫌いです。勝手に言ってろ、自分のことを棚に上げるな、あるいは恵まれた環境から何をほざいているんだ、とか思われるでしょう。はい、全面的におっしゃるとおりです。でもこの無駄に長い感想文を読んでくれた人たちに伝えたい私の想いはこれです。逃げるな。ディベートの世界、ディベートの意義はもっと広い。もう少し続けてみろ。せめて後輩を持ってから考えろ、と。期末試験が終わったら、春休みもディベートしてみませんか。
6. おわりに
こんな自己満足的駄文を最後まで読んだあなたはずいぶんと変わった方です。あるいは読み飛ばしたのならあなたは賢いです。きっと一年後に見たら恥ずかしくてたまらなくなるようなことを書いている自覚はありますが、いまはこう思っているので載せてしまいます。
最後に、やはりパートナーのひとみには感謝してもしきれません。苦行にもなりかねない長丁場の国際大会が楽しいもので終わったのはひとえにひとみのおかげです。ありがとう。そして足を引っ張りまくって散々迷惑をかけてごめんなさい。ジャッジをしてくれたわれらが前部長であるひろさんにも感謝します。そしてジャッジブレイクおめでとうございます。Worldsでのジャッジブレイクは本当に偉業です。旅程で一緒だったWADのたつみと、ほかの日本人参加者のみなさんもありがとうございました。
みなさん、いかがでしたか。これで、Kenさんの感想文は終わりです。
次回のポストは、Asian Bridgeについて投稿します。では、また。。。